ランプの宿に泊まって海産物を貪った話

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12月末の青森は思っていたよりも寒くなかった。
東京駅から新幹線で3時間。わりとあっという間だった。

道中ではNetflixティム・バートンの『コープス・ブライド』を見た。予想通りに映像が凝っていて面白かったので、2人とも普通に集中した。

今回の旅の目的はとにかく「ランプの宿・青荷温泉に泊まる」というところにあったので、1泊2日の時間の大半は電車に乗ってえっちらおっちらと移動ばかりしていた。

青荷温泉は、何というか、めちゃくちゃ山の中にある。青森から弘前まで行って、そこからまた電車に乗って、バスを乗り継いで。朝の8時半過ぎに東京駅を出たにもかかわらず、途中電車待ちの時間などもあったので、青荷温泉に着いたのは夕方の17時前くらいだった。


青荷温泉のことは2、3ヶ月前くらいに東京別視点ガイドを見ている時に見つけて、せっかくなら行ってみたいと氏に提案したのだった。

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書いていて思ったが、そもそも何故今回の旅行が決まったんだったろうか……そんなに前の話でもないのにそれすら思い出せない。人の記憶は本当に儚い。私は普段氏の記憶力のなさ(というよりも覚えておく気のなさ)に対しもやもやすることがあるけれど、あまり人のことは言えたもんじゃないなと思う。


さて、青荷温泉の話をする。率直に言えば、あのお宿はある種のテーマパークだ。温泉旅館に泊まったというよりも、ランプの明かりのみで生活するという体験を得に行ったという印象が強く残る、そんな宿泊体験だった。

ランプの宿という名に偽りはなく、館内は屋内の大浴場から客室、大広間まで全てランプの明かりしか灯っていない。要するに、電気とかコンセントとかそういうものが一切ないのだ。

浴場にはシャワーもない。桶でひたすらに湯を汲み頭を流す。これも体験としては面白い。毎日やるとなるとキツいけれど。
トイレや洗面所は共用。お湯などという概念は存在していないので、皮膚が切れるんじゃないかという冷たさの水で歯磨きをした。

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客室は必然的にストーブのにおいで満ちている

氏がトイレについて「きちんとウォシュレット付きで便座はあたたかかったんだけど、そこの部分はユーザービリティに配慮していて面白い」と言っていて、確かにその辺りもテーマパーク感を助長しているような気がする。
あと、氏曰く、トイレのコンセントでスマートフォンを充電している輩がいたらしい。とんだ猛者である。その行いにハーと感嘆すると同時に、この人めちゃくちゃトイレのこと話すなと思った。

そんな訳でトイレについては近代的な青荷温泉だが、当然客室にはコンセントなどなく、石油ストーブの前で懸命に髪を乾かすしかないので髪の長い人は大変だろうなと思う。

 

夕食は他の宿泊客の皆さんと一緒に広間で頂いた。岩魚が集団で焼かれていたり、鴨鍋がおいしかったり、へーとかはーとか言いながら楽しく食べた。

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くべられた岩魚の群れ

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ザ・旅館飯

食事のあと、薄暗い部屋の中で缶チューハイで乾杯した。ほろ酔いガチ酔い勢の私は案の定1缶でべろべろになり、それが落ち着いた頃に露天風呂に向かった。やっぱり山だから月が近いですねえという話をして、ストーブを消して寝た。


ランプを消したらいけないということで、薄明りの中で寝る感じになったのだけれど、これが想像以上にぐっすりとはいかず2人ともあまり眠れなかった。眠い眠いと呪詛のように呟きつつ、2人で朝風呂へ。

青荷温泉は敷地内に小さな浴場が4つあって、それも関係しているのだろうけど、夜寝る前に入った時も朝入った時もお風呂は貸し切りだった。もしくは我々の行動パターンが余程他の皆さんとは違っていたのだろうか。そこは謎であるが、貸し切りは嬉しいので問題はない。

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ド小食なのでこの量の白米にもヒイヒイ言いました

和の朝ごはん。お味噌汁が本当においしくてびっくりした。もっと旅館の方に聞こえるようなクソデカい声で「おいしい!!!!!!」と言っておけばよかったと思うくらいおいしかった。実際のところは心の中で「あっうめっ!」と一言漏らしただけである。感情がうまいこと外に出ていかない身体構造で申し訳ない。

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宿の入り口にあった趣あるストーブ

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青荷温泉湯けむり殺人事件」が始まりそうな写真になってしまった

 

そんなこんなでチェックアウトをして、またシャトルバス→何がしかのバス→電車と乗り継いで青森駅へ。

青森駅の近くには「A-FACTORY」というシードル工場とおみやげ屋さんが一体となったサイコーの施設があり、そこでお高いハンバーガーなどを食べておみやげをしこたま買った。

アップルティー、うまい。シードル、うまい。ドライりんご、うまい。りんご飴キット、楽しくてうまい。

乾燥りんご、軽い気持ちで1袋だけ買ったのだけれど、本当においしくて食べながらどうにか通販できないか2人で探したが駄目そうだった。悲しい。うまいものにはそれ相応の対価が必要なんだろうな。青荷温泉では「今度は秋の紅葉シーズンに来たいですね」と氏が言っていたので、またリベンジしたい。

ところで話は脱線するのだけれど、旅行中に何度か「今度はどこどこに行きたいね」といった話が出ることがあって、それが素直に嬉しいというか良いことだなと思ったのを思い出した。少なくとも、氏の中ではすぐにハイさようならということではなさそうだ。いや、何も考えてないだけかもしれないけど。

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この乾燥させたりんごが本当においしかった

シードルの話をしよう。このA-FACTORYにはシードルの試飲をするためのマシンが設置されていて、3種類ほどのメーカーのシードル(各ドライ、スタンダード、スウィート)を飲み比べできるのだ。

その試飲方法が面白く、売店で300円とか600円のカードを購入すると、そのカードの金額分の分量が飲めるという仕組みになっている。

人がいたのでマシン自体の写真は撮らなかったのだけれど、マシンの横がちょっとしたラウンジみたいになっていて、ゆっくりと座って試飲できるのもよかった。

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例によって全部飲み干した後の光景

 

たんまりとおみやげを買って一息ついて、この時点で既に13時半とかそれくらいになっていた。そこからまた1時間半ほど鈍行に乗って八戸へ向かう。

我々は八食センターを目指していた。八食センターとは市場で買った海産物を七輪でその場で焼いて食せるという魔の空間なのだが、こちらも東京別視点ガイドに詳しいので興味のある方はそちらを覗いてみてほしい。

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 八戸駅は閑散としていた。駅から八食センターまでは100円バスが出ているのだけれど、午後16時半過ぎ、そのバスに乗っていたのは我々2人だけだった。

八食センターは18時で閉まる。着く頃には17時前になっているであろうこともあり「もしかして今更行ってももう何も残っていないんじゃ……」とかなりソワソワしていたのだが、結論から言うと、それは杞憂で済んだ。

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計2000円ちょっと 恐ろしい世界だ

ホタテを、イカを、エビを、しこたま食べた。わりと閉店ギリギリに滑り込んだ形だったので、八食センターではこの1枚しか撮っていない。撮る時間があったら焼いて食う、あそこは戦場だ。

比較対象がないので何とも言えないが、このサイズのホタテが6枚で1000円。おかしい。物価がねじれているとしか思えない。本当にここは此岸か?

上の方で焼かれているのはホンビノス貝。初めて見る貝だったので何だその名前は……と思いましたが味は歯ごたえがあって大きいアサリという感じで美味でした。

滑り込みだったのでお酒も飲めず、八食センターはぜひまた余裕をもってリベンジしたいと強く心に誓った。青荷温泉とセットだとまた同じ轍を踏む気しかしないので、今度は八戸近辺の旅館に泊まりたい。

 

八食センターから八戸駅までの道のりがまた大変だった。センターから駅までは車で10分~15分ほどなのだが、徒歩だと40分くらい掛かる。私は旅先で歩くのが好きなので、何を血迷ったか「歩いて帰ろう」ということになった。

自分たちの他に人っ子一人道を歩いていないこと以外は途中までは順調だったのだけれど、とあるポイントで道を渡りそびれ正規のルートを進むことができなくなってしまった。

慌ててGoogle Mapに別ルートを提示してもらい、そちらを進む。少し進んでいくと、非情にもナビはだだっ広い田んぼの真ん中を走る獣道のようなところを指した。いや本当にここ行くのかよ、と2人で笑ったがどうやってもこの道を行くしかない。新幹線の時間が迫っている。

私はこのあたりで完全にハイになっていて、雪だ~~~~とか何とか言いながらざくざくと音を立てて走った。コンクリートではない道、それも雪が積もって草の生えている道を歩くなんてそうそうできない。そう思ったら走るしかないと思った。後から聞いたところによると、氏曰く、「何でいきなり走り始めるんだろう」とやや不思議に思ったらしい。

夜の青森はさすがに冷える。寒い寒いと言いながら獣道を走り、それを抜けたらまあまあ車が通るのに歩道のないクソデンジャラスロードを2人でヒヤッヒヤしながら歩いた。

この時、氏は本当に轢かれたらどうしようとハラハラしていたらしい。一方、私は今年の初めに行った友人との仙台旅行の際に同じような経験をしていたので、わりかしケロッとしていた。あとはまあ、多分かなりハイだったのだろう。
それにしても、私は東北に旅行に行くと必ず歩道のない道を車とスレスレで歩く業を背負った女なのか?

何とか新幹線の出る25分前くらいには駅に着いて、少し前に『ボヘミアン・ラプソディ』を見ていたので駅前でクイーンの『We Are the Champions』を歌った。1人で。歌う時も踊る時も大抵1人だが、もう慣れた。相手が歌わないのなら私が2人分歌えばいいだけの話だ。

帰りの新幹線では2人ともうつらうつらとしていて、どうにかこうにか北千住まで帰った。買ってきたアップルティーを飲み、ドライりんごをむしむしと食べ、ちゃんと風呂に入って寝た。

 

総評。冒頭でも書いたけれど、今回の青森旅行は非常に楽しかった。特定の人間とこれだけ長い時間一緒にいて疲れないというのは非常にありがたい話だ。そこは本当に忘れてはいけないな、と書いていて改めて思った。

別に美談にしたい訳ではない。相手に対して思うところはめちゃくちゃにあるし、私だって向こうに迷惑を掛けまくっている。けれど、それでも、また次はどこに行こうかとどちらからでもなく話し合えるような関係はありがたいことで、そこを忘れて相手のあら探しばかりしてはよくないなと思えるようになった。

そして、やっぱり私には書くという作業が必要だなと実感した。書くことで思考が整理されるし、日々のことを手っ取り早く残せるのもいい。この話既にここで5万回してるな。

兎にも角にも、2人で楽しかったねえと思える旅行になって本当によかった。

翌日に氏は熱を出し寝込むことになったが、それはまた別の話だ。